そしてチビいじりは無くなった

世の男たちが出来れば抱えたくない欠点に、チビデブハゲブサイクなどが挙げられる。お笑い芸人の中にはこういった特徴を自虐して笑いに変える強かな者たちも多かった

 

さて、昨今の若手芸人たちを見ていると気づくことが有る

芸人の平均身長は間違いなく昔より高くなったということだ

加えてここ数年で身長の自虐ネタを見たのはシシガシラだけである。彼らは前回M1の決勝に赴いたので見知っている人も多いのではないだろうか。なぜ身長の自虐やいじりは下火になっていったのだろう?

 

最大の原因はやはり観客たちの価値観が変わったことだと思う。若者たちのIQは上がり続け、大学進学率は上昇の一途をたどり、前頭前皮質は肥大し続けている

Y世代よりもX世代、X世代よりもZ世代、と親から子へ脳の持つ特性は受け継がれ続けていった。これは裏を返せば愚か者は結婚できない世の中が拡大していった証である

 

そのような社会の変遷がいよいよお笑いの世界にまで波及してきたようだ。今の芸人に大学に通っていない者はほとんど居らず、かなり高偏差値の学校の名前が散りばめられていることに気づくだろう

ファッショナブルな服装、精錬された声の抑揚や言葉選び、世間が求めて止まない面白さとのシンクロ

それらの全てが彼らの認知能力と非認知能力の高さを示している

 

また都内では賃貸価格が上昇の一途を続けているらしい。若手芸人はシェアハウスをしなければなかなか活動ができないようだ。必然的にシェアハウスがこなせるくらいには常識的で理性的な、リテラシーに富んだ者たちが現代のお笑い芸人になっている

 

プレイヤーも観客も、理性的で常識を穿つような言葉のやり取りを求めているようだ

高まり続けるネットリテラシーの賜物なのだろうか?

生まれつきのハンディキャップを嘲笑うかのような狭量で浅薄な価値観は既に若いお笑いマニアたちにはあまりウケがよくない、そんな印象を私は受ける

 

とは言えハゲにおいてはこの限りではない。世の中の99%の禿げた男性はフサフサの幼少期を過ごしていたからだ。失われたものを嘆くよりも前向きに捉えて笑いに変えようという考え方も出来るのでハゲ自虐は絶滅していない。今後しばらくはしないだろう

 

デブは論外かも知れない。自己管理不足という烙印を押されかねない要素だからだ

実際は肥満も遺伝するのでいつかはデブいじりなども下火になって行くだろう

しかし人類の歴史300万年を見渡しても、肥満が悩みとして成立してしまうほどに社会が飢餓を克服出来てからは僅か60年程度しか経ってない

太っていることは現代人が恵まれている証拠であり、美味しい物を何も食べない人生よりも、美味しい物をたくさん食べる人生の方が素晴らしいのは言われなくとも皆が知っている

デブいじりは社会が豊かな証のミラーリングなのだ。これもしばらくは滅びないだろう

 

年々若者たちの感性は進化し続けている

常識を穿ち、固定観念にヒビを入れ、世間の認識を再定義するような高度な笑いが跋扈している

 

かつて19世紀に生まれた偉人たちはヨーロッパの伝統と価値観に反旗を翻した。しかし彼らの時代には教育を受けられる者も、意見表明の場に立てる者も極一握りだった

時は流れて社会の誰もが高度な教育を受け、自由に意見表明を出来るようになったこの現代社会では、漫才の中にすら社会への投石を垣間見ることが出来る

 

もし興味が有ればだが、リップグリップやコーツ、バッテリィズやエバース、三遊間やTCクラクション

江戸マリー、シンクロニシティ、太陽の小町。カラタチやニモテン。

ひつじねいりやモンスーンなどに触れて見ると良いだろう

 

詩的に知的、不敵で素敵な言葉のキャッチボールがあなたの脳を魅了するかも知れない

 

科学技術の進歩によって漫才は芸術の域へと踏み込み始めた

作品の制作者たちが報酬として受け取った多くの拍手や笑い声と共に、インターネットの海の中で展示され続けている

 

2024年03月26日(執筆時間48分)