戦争がある時代に生まれて良かった

下には下がいるらしい

 

男の子のキャラクターが好きな人はファンアートを検索することが時にはあるだろう。私は時々やっていた。少し前に男の子の名前を二つ入れてグーグル画像検索をしていたところ、私はとある女性イラストレーター「K」のホームページを開いてしまった

画像から右クリックでウェブページの中心部へと一足飛びで到達することは容易い。それは画像検索アプリなどでも同じことである。踏み込んだそこは地獄だった

彼女の作風はバイオレンスにしてグロテスク、サディスティックにしてドメスティックな、この世の悪逆非道を煮詰めたようなものだった

憤慨してサイトトップに出向くとご丁寧に「当サイトをご覧いただいた際の精神的ダメージの保証及びクレームは受け付けない」と書いてあった。時すでに遅し

更に丁寧なことにツイッターやピクシーブのリンクもあったのでまとめてブロックしておいた。ドメインもブロックした。もう永遠に会うことはないだろう

中世スコットランド人曰く、アザミにも効用が有るらしい。しかし愚かな私にはとてもそのような物事の受け入れ方は出来ないようだ

 

翻って古代中国人曰く、敵を知り己を知れば百戦しても危うくはないらしい。少し思い直して彼女の生態を調べるためにツイッターを少し読んでみた。数十ツイートを読んだところで私は白旗を上げることになったがいくつか分かったことが有る

この世のどこかには男性向け(?)のR18G界隈(?)というものが有るようだ。私はインターネットのアンダーグラウンド(?)な文化には明るくないため知らなかった

最下層と思しき彼女の作風には更に下がいるらしい。彼女はそういった男性イラストレーターに影響を受けて活動をしているようだ

 

よくわからない願望をこれ見よがしに言及し、不愉快の粋を利かしている彼女にもフォロワーが1000人以上居るようで、いつ第二第三の「K」に出会うか分からない

画像検索とはこんなに恐ろしいものだっただろうか

見えないワニを恐れるヌーのように、影の無いシャチを恐れるペンギンのように、私はますますネットの海を恐れた

 

彼女に影響を与えた男たち、危うさと怪しさを極めた男たち、特に二次創作のキャラクターでそんなものを搔いている危険人物たちをどう解釈すればよいのか私にはわからなかった。それは今もわからない

 

しかしあるニュースと出会うことで私は考えを少し固めることが出来始めたようだ。近年どこか遠い異国の地では戦争が繰り広げられているらしい。2012年頃から急速に広まり始めた新たなモバイル機器とそれに付随する文化などのおかげで、かつてのどんな遺跡や書物、絵画や写真たちよりも、20年代の戦争は私たちに完膚なきまでに戦争のリアリティを運んでくる

 

民間人への攻撃、虐殺した人物の遺体や強姦された女子の映像を本人のフェイスブックにアップロードするなどの蛮行を伝え聞くことで、生物本来としての人類がいかに野蛮で下劣なものかを思い知ることができるだろう

 

打って変わって私の住む社会はまるで別物だ。男たちにとって破壊衝動や諸々の欲望は現実味を失い、一生縁の無い無用な物と化している。社会はますます清浄を極め、平静に努め、平成は遠のいていく

さしものR18Gイラストレーター達も、正真正銘の戦争犯罪者達を見た後では常識人の範疇のように感じられる。私は麻痺してしまったのだろうか?

彼らは概してフィルターの向こう側に住んでおり私の視界には入らないし、現に入っては来なかった

 

人々は無用となった欲望が放出される先を求めているのだろうか?

ますますクリーンナップされ続け、過激なものが町の隅々から排除され続けていく社会の地下で、過激さを増し続けていくクリエイターと、過激さを求め続けている消費者が居るのであれば、これを本音と建前の社会が持つ二面性と捉えるべきだろうか?

私にはわからない

 

さて幾多の悩ましい昼と夜を過ぎて私は「K」を赦せただろうか?

 

 

 

赦せなかった

 

 

 

爆炎も硝煙も暴虐も作り話の世界と化し続けているこの社会で、私は「K」が地獄の業火に灼かれることを祈るのは遂に止められなかった

 

もし貴方が可愛い男の子や美少年、中性的な青年とか男の娘に女装男子といったキャラクター像を愛好しているならば、グーグル画像検索などには細心の注意を払うべきだろう

彼女のホームページに鉢合わせてしまう確率は貴方が住む町にミサイルが飛んでくる確率よりも百万倍は高いからだ

 

2024年03月24日(執筆時間39分)